パレットは、絵の具をチューブから出してまず置く「きれいな小さな窓」と混色をしたり、水を使って濃度を調整する「大きな窓」と読んで子どもたちと呼んで使っています。 先生によっては「小窓に全ての色を出させる」という方もいるようですが、ぼくはそこまでする必要性が感じられないため、「今日使いそうな色を全部出そう」と話をしています。子どもたちは使う色をほんの数色だけ出して、生の色のままで(混色をすることなく)「絵を塗って」しまいがちです。小さい頃からの「塗り絵」(「ぬり絵」ではなく?)の弊害だと思います。全部の色を出さなくてもいいにしろ、ほんの数色、目先の色だけを出させることはさせたくありません。 「今日はどんなところを(絵の具で)描いていこうか」「そのとき、どんな色を出せばいいのか」という先を見通す力をつけさせていくことが大切だと考えるためです。たったパレットにどの色を出すかということでさえ、この時間にどのような活動をしていこうかという見通しが持てるかどうかと言うことを教師は子どもから見て取ることができるのです。 絵の具は生の色(原色)を使うことは、ポスターなど以外ではあまりありません。色と色がぶつかり合ってしまいすぎるからです。部屋に差し込む光、描きたい景色一面を照らす太陽の光といったように”光”を意識していく必要があります。そのため、夕焼けなら夕焼けで夕日の光が辺り一面を覆うことになるため、当然画面にも”夕日”という光のフィルターで画面全体を赤っぽく描き出す必要があります(ちょっと乱暴な言い方ですが)。それは、朝の光にしろ、すりガラス越しの北窓の光でも、つねに人間は、光源から発せられた光(=可視光線)が物体に反射したものを目によって認識することができるからです。いわゆる絵画における「色調(トーン)」というものです。生の色は、自然界に基本的に存在しない理論的な(人工的な)色、それも純色のため統一感は感じられないのです。 昔、土や岩、灰、骨、時には宝石を砕いて絵の具のもと(顔料)をつくっていたときには、当たり前ですが色は自然の色でした。そのため、真っ白な白とか真っ黒な黒、真っ赤な赤などは基本的に身の回りには存在しませんでした。その名残がパソコンのプリンタなどで使われているインクCMYK(Cyan、Magenta、Yellow、blacK)に見られたりします。油絵の具でよく使うカドミウムレッド、バーントアンバー、 バーントシェナー 、ターコイズブルー、イエローオーカー などは、それぞれの顔料の原料から名付けられた伝統的なものが使われています。それと比べ、白、黒、赤、黄、緑、青といった色は、名前自体は自然由来のものかもしれませんが、理論的に純粋な色(=純色)なのです。 そのため、どの色にも白を適量混ぜてパステル調にしたりするなどして、色の調子(=トーン)を統一することが絵の統一感を持たせる大切な技法・理論となってきます。カラーコーディネイトなどは、この考えを具体化させたものです。そして色調は、「淡い」「鈍い」「鮮やかな」などといった言葉で表されたりします。 少し難しいことを書いてしまったかもしれませんが、ここでは無理に色調をつくらせる必要があるということを述べているのではなく(子どもが必要感を感じたときには当然教えていくべきですが)、生の色を考えなしに使っていくことの無神経さに気をつけていってほしいと考えるのです。 子どもたちは、肌色は白と茶色と赤と・・・と「大きな窓」と色を混ぜていきますが、黙って見ていると「大きな窓」できれいに混ぜてしまいます。そうした絵の具をペンキのように?!画用紙にぐいぐいと塗っていってしまいます。そして、それまでうまくいっていた鉛筆描きの絵がとたんに、思い描いていたイメージとかけ離れていってしまうことになってしまいます。子どもたちの多くが絵を嫌いになってしまう理由がここにあります。 子どもたちには、「大きな窓」には、2~3色、多くても4色程度しか「大きな窓」に置かないように指導していきたいものです。さまざまな描画法がありますが、それでも小学校においては、「大きな窓」できれいに混ぜ込まずに、ある程度思い通りの色になってきたら、画用紙にトントンと絵の具をおいていくように指導しています。そのため、画用紙の上でも微妙に色がまざりきっていない状態になります。人の顔、洋服、木々の葉、動物の毛並みなどの多くはトントンと絵の具をおいていくように(こすらない)描いていくタッチでそれらしさを表すことができます。これをぼくは「トントン描き」と呼んでいます。例外もあります。例えば透明感のある広々とした空を描くには、純色の青を水たっぷりに加えて、筆を横に動かしていくと、透明感のある青色の広々とした雰囲気を表すことができます(あくまでも一般論ですが)。川の流れなども「トントン描き」の例外でしょう。草原なども下から上向きに筆の穂先をサッサと動かしながら描くと、さも草が生えているように見えてきます。 この描画法「トントン描き」は、印象派で確立されたの描画法の一つでもあります(名前はちがいますが・・・)。この描画法の利点は、色を完全に混ぜ合わせないことで色の鮮やかさ(彩度)を損なわないで描くことができるというものです。絵の具は混ぜれば混ぜるほど色は濁っていきます。3原色と言われる赤、黄、青の3色を混ぜただけでも黒っぽい色になってしまいます。意識して濁った絵を描く場合もあるでしょうが、基本的に子どもたちは鮮やかな色、濁っていない色を好む傾向にあるため、あえて濁った色をつくらせる必要はないと思うのです。 もし、思ったような色にならなかったら、すぐに絵の具雑巾やティッシュなどでその色を捨ててしまうことも大切です。こんな色にしたいというイメージをしっかり持ち、パレットの上で数種類の絵の具を混ぜ合わせることでそのイメージにできるだけ近づける作業をする。それは、単に黄+青=緑といった簡単なものではありません。イメージをしっかりと持ち、そのイメージをブレさせることせず、そのイメージにできるだけ近づけていく・・・大人でもとても難しいのですが、その年齢なりに体験させていくことが大切だと思います。 そのためには、対象をよく観察することも大切な力です。子どもの色の認識は、一般的に概念色、固有色、現象色とがあると言われています。概念色とは、葉っぱは緑、土は茶色、海は青といったイメージの色です。固有色は、そこから一歩踏み込んで、葉っぱでも、種類によっては緑の濃さがちがったり、秋になったりすると赤が交ざったり、黄色になったり、茶色になったりするというものです。現象色は、秋の葉が赤や黄色に色づくだけではなく、光の当たり具合によって色が変化することを認識した色の表現のことです。これは、その子の発達段階によって認識が違ってきますので、一概に何年生だから教える教えないと決められるものではありません。 一方で、子どもが身の回りにたくさんの色があることに気づいていく必要があります。必要に応じて(無理矢理ではなく)色の名前も教えていくことも必要だと思います。ねずみ色、朱色、山吹色、浅黄色、茄子色、葉裏色などの日本の伝統的な色と色の名前を教えていくのもいいと思います。小さなカラーチャートを先生が持っているのも、とてもいい手だての一つです。
